2011年 03月 19日
旧ソ連チェルノブイリ原発事故(1986.4.26)はなぜ起こったか? |
1986年(昭和61年)4月26日、4号炉で発生した世界最大規模の放射線汚染事故となるチェルノブイリ原発(沸騰水型原子炉)事故は、日本では㊙扱いにされたIAEA(国際原子力機関)の専門家会議に提出されたソ連の報告書のなかで、運転員の重大な規則違反が6つの罪として指摘された。しかし、実際の真相は、闇のなかにあり、運転員のミスに転嫁できない原発本来のもつ「危うさ」にあるとみなければならない。
【暴走事故の前史】
この原発事故は、1979年(昭和54年)3月28日アメリカスリーマイル島で起きた原発事故を上回る被害をもたらしたが、それは、商業用の原子炉では世界初の「反応度事故(専門用語)」=「暴走事故」に起因する。商業用として始めてという意味は、それ以前に試験用及び軍事用原子炉として、前者は1954年アメリカでBORAXという沸騰水型で起きた事故、後者は1961年SL1軍事用原子炉で起きた事故があるからである。
【暴走事故の特徴】
異常発生から秒単位で発生する暴走事故は、原子炉の空焚き事故(「冷却材喪失事故」)とは異なり、その瞬時性故の以下の特徴をもつ。
1)緊急炉心冷却装置(燃料を水漬けにして空焚きを防ぐ)の機能は用をなさない。
2)避難する時間的余裕は一切なく、いきなり放射線放出が始まる。
3)短い寿命の放射線も減ることなく、極めて強い放射線放出が続く。
【事故発生の発端】
事故の発端は、原発そのもののトラブルではなく、直接関係のない「発電機機能の改善を図る電気系統への制御基板を取り付けて、電流を維持できるかどうかの「テスト」にあった。
どうして、このテストが不可避であったかは以下の通りである。
1)原子炉への給水が停止する停電発生時には、最初の45秒間にポンプで原子炉に給水する必要があること
2)そのポンプの電源として停止後も回転を続ける発動機の余力を電力として使うことが必要であること
3)しかし、発動機の回転数は停電後低減することから、この低減を回避する電流制御の機能を付加することが必要であること。
【原子炉の基本構造】
暴走事故は、反応度事故とも言われる。原子炉は、定常運転時は「臨界状態」にあり、その時の反応度はゼロ状態と言う。運転中の原子炉は、反応度ゼロでなければならないが、「反応度事故」とは、なんらかの要因で反応度がプラス(核分裂反応が加速される状態)になり、時間とともに急上昇することを指します。
反応度のプラス要素は以下の通りです。
1)燃料棒(「燃えるウラン235」)の量
2)減速材(高速で動き回る中性子を減速させ、核分裂を加速させる)の量
(チェルノブイリ原発は「黒鉛(グラファイト)」を使用。軽水炉は「水」を使用)
反応度のマイナス要素は以下の通りです。
3)中性子を吸収する制御棒
4)燃料棒にある「燃えないウラン238」の効果
5)燃料棒にある「核分裂で生まれる核分裂生成物(キセノン:死の灰)の効果
原子炉内のプラスとマイナスを総和して、その出力が2.7倍にまる迄の時間の尺度を「原子炉ペリオッド(暴走周期)」といい、この時間が短い程、上昇速度が大きく、制御を困難にします。
通常は、約1000秒(16分強)で2.7倍の出力になります。事故の際は、「20秒より少ない」という報告があります。
【事故の経過】
1)4月25日23時出力をテスト環境の定格20%〜30%に下げる操作をしたが、殆ど出力0に近い状態に陥ってしまった。
2)この状態は燃料棒の「キセノン」が増える危険を回避するために制御棒を抜いて出力を上げようとしたが、26日1時頃迄にやっと6%迄到達した。
3)この段階で、テストを中止すれば、暴走が起きなかった可能性があったが、電気関係者の判断でテストを強行した。
4)テスト環境にするためにポンフを増やし冷却水の流量を増やしたが、これが起因して、炉内の冷却状態が不安定になり、不安定な状態を乗り切るために緊急停止装置の作動をさせない操作をした。
5)午前1時23分、テスト開始。テスト成功。しかし炉内の冷却水中に蒸気泡が徐々に増加し、炉内の反応度がプラスに転じ、制御棒の自動挿入機能が働いた。
6)テスト開始40秒後、1時23分40秒に原子炉を緊急に停止するボタン(AZ5)を押し、引き上げられた制御棒を炉内に挿入する措置(完全挿入迄18秒)をとったが、間に合わず爆発し、暴走が始まった。
7)暴走で加熱した燃料材が炉内で、破壊飛散し、この欠片が冷却水と接触し、大量の水蒸気が発生し、二度目の爆発(水素爆発)が起きた。
【事故の教訓】
ソ連報告書は、冒頭のように運転者の規則違反としているが、本質的な教訓は、以下の通りである。
1)テスト運用者が当該テストをタービン室の40秒間のテストであることから、原子炉とは、関係ないという認識にあったこと。
2)事故は、通常運転の原子炉で起こったことではなく、運転停止に向う原子炉で起こったということ。
つまり、出力100%をゼロ状態にする過程で原子炉の安定に関わる多くの計測値が正規の範囲を超える為に原子炉の状態が不安定となります。この状態を制御することは、極めて、人間の通常の判断ではミスを起こす要素があまりにも多いとことです。
原発は人智を超える制御をもとめるシステムであることを知るべきである。
(「科学としての反原発」久米三四郎 七つ森書館2010.8.31をもとに編集した)
by inmylife-after60
| 2011-03-19 15:35
| 震災・原発・廃炉
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