2011年 09月 13日
文藝春秋:「崩落1ドル50円時代」(要約) |
最近発売された「文藝春秋」10月特別号に掲載された『シュミレーション小説「崩落1ドル50円時代」』 を読んだ。
この小説の予測内容の到来度合いの評価はさておき、リーマン以降の、そして昨今のEUユーロの混乱など今日の資本主義経済の凋落という環境のもとにおいて、日本は何をもってこの世紀を生きるのかを考えさせられる論考である。
シュミレーション小説「崩落1ドル50円時代」(要約)文藝春秋10月特別号
水木 楊(作家)
緒言:
「問題は、1ドル=50円ではない。怒濤のような円高の背後で進行していた壮大なスケールのドラマにこそ問題がある。そのドラマの有するマグニチュードの大きさに気づいた人間がごく少数に過ぎなかったのは、不幸なことだった。
フェーズ(局面)を三段階にわけて振り返ってみよう」
フェーズI(2011年9月〜2013年8月まで)
○米国は、リーマン危機後の史上最大の景気刺激策(8千億ドル)が、公共事業を行う各州政府の歳出を補填するものに過ぎず、年末の失業率が10%近づき、1500万人に到達、失敗に終わる。2012年秋大統領選挙は、オバマへの「連邦政府の歳出削減は、金持ち優遇」との批判が広がり、ホワイトハウスから追われ、共和党リック・ペリーが勝利する。
○EUは、信用不安のギリシャとアイルランドからイタリアに波及、ECBはイタリア国債に続き、スペイン、フランスの国債購入に発展。S&Pはドイツ国債を格下げした。
○日本は、政府負債GDP比2倍やゼロ成長も、経常収支の黒字、対外純債権国という面を買われ、円相場は、2012年春に1ドル=70円を記録した。
牛丼は一杯百五十円に
○円高の利益を享受したのは、海外旅行業者。ニューヨーク4泊5日39800円の代物も。金持ちは、海外不動産を買い始め、「リトルジャパン」が出現、ハリウッドで浴衣パーティも。輸入物価は下がり、牛丼は150円となった。アジアからの出稼ぎ労働者が殺到し、建設現場では中国語、マレー語、タガログ語が飛び交った。日本人労働者が、アジア就業者の宿舎を襲撃する事件も頻発した。
○2013年春、1ドル65円に突入。輸出企業は、「最早、生きていない」と言葉を残すも、「これまで通りのやり方では」との言葉が隠されていた。「円高への悲鳴ばかりが聞こえてきたのは、その恩恵に浴していた人たちが、「歓迎」の声を発しなかっただけのことだ。儲けていると誰が声高に叫ぶものか」
○政府・日銀には、円高容認が隠されていた。原発賠償金の捻出にしか頭になかったのである。依存する火力発電に必要な石化燃料を安く買えることから、円高対策は通り一遍に終わる。日銀は、実効レートからみえれば、円高は、必然との認識。この15年間、国内物価は殆ど横ばいなのに対して、米国は、35%も上昇、実勢は1ドル60円という理屈である。
フェーズII(2013年9月から2016年8月まで)
○2015年秋、国内人口が5年前の国勢調査より58万人が減少した。これは、原発事故、東南海地震予知発表にも起因するが、円高で円建て10万円の収入で楽に暮らせる海外在住者が急増しているからという。定年退職後の高齢者が真っ先に海外に脱出した後に続いたのは、若者たちだった。円高で学費の安くなった海外の大学、全寮制の高校、中学校からの勧誘の増加である。また「ワーキングホリデー」を踏み台にして定住を探る若者たちも増え、現地女性と結婚して永住権を狙う動きも。日本の各地には、永住権、グリーンカード取得を支援するための寿司職人、日本語・俳句・アニメ・柔道・合気道・茶道・華道・ダイビングなどの教師やインストラクターになる促成スクールが生まれた。
ドルが基軸通貨から退位
○2015年7月OPECは、ドル建てである石油価格を SDR建てに変更することを決定したことを受け、日本資本の寿司チェーンが円建てクーポン券を発行し、割引を実施した。基軸通貨であるドルの終焉の始まりだが、それに変わる通貨のない「大空位時代」が始まった。度重なる救済策と資金保証を繰り返したことから、FBRは、財務が急速に悪化させ、GDPの60%に当たる8兆ドルの負債を抱える迄になっていた。
○2015年で米国債は16兆ドルと再び連邦政府の債務上限に突き当たる勢いで増加したが、律儀に米国債を買い続けた日本を尻目に、中国は外貨準備に占める米国債比率を下げ、金、スイスフラン、円にシフトし、更に日本の不動産と株を香港とタックスヘブンファンドを隠れ蓑に取得し、政府系投資会社で大量保有報告義務のない5%以下の株式保有をすすめていた。
不吉な兆候
○円が1ドル=60円に達した2015年末、日本の経常収支が赤字に転じた。 エコノミストは、これを「復興事業による輸入増加」「観光収入の減少」に求めたが、2016年度も、赤字終息の気配はなかった。政府部門の負債を家計部門の貯蓄で埋め合わせていた200兆円の余力は、団塊世代の高齢化に伴う年金支払いの増加と生保の財務の悪化で食い潰され、原発の廃炉、徐洗、補償、B型肝炎補償などの国債増発で消えてしまった。
○打つべく手は、思い切った歳出の削減と消費税の引き上げであったが、2011年秋に、財政再建論者の野田佳彦を首相に選んだが、消費税の引き上げもできず、TPPも葬り去られ、「社会保障と税の一体改革」も先送りとなった。日本国債の保有者に占める非居住者の比率が13%に急増し、国債相場は、非居住者の頻繁な売買高に左右され始めた。
フェーズIII(2016年夏以降)
○2016年秋円は1ドル50円を記録した。しかしこれは、恐ろしいほどの「円安」への逆流の始まりだった。2016年11月に再選を果たしたペリー大統領は、翌年1月の一般教書で、「フリーランチ(ただめし)の時代は終わった」と宣言し、国防予算を大胆に削減する予算教書を「世界新秩序の確立」と銘打って発表した。それは、「世界の警察官」であることを止めるということだ。2001年に世界の32%を占めていた米国GDPは、すでに20%を割り込み主要通貨に対するドル価値のインデックスは、2002年対比で四割も下がっていた。
○マスコミが「新モンロー主義」と呼ぶペリーの宣言は、米国の生命戦を中東を除くアジアではグアム以東に変更するというものであった。それは、沖縄を含む極東の放棄であった。その空白に中国は、新設空母を配備し、2017年夏、ついに尖閣諸島魚釣島に上陸し五星紅旗を打ち立てた。日本政府は抗議し北京大使の召還を断行したが、逆に中国は「沖縄本島に潜在的な主権がある」との非公式見解を流し始めた。
ついに国債暴落
○2017年夏、円は「有事に弱い」通貨を露呈し、1ドル60円に逆戻りした。中国政府は、突如現状のドルペッグから離別し、変動価格制に移行し、1ドル6元台から3.5 元に急上昇した。この措置は、インフレ抑制とされていたが、強い元を生かす資産形成を狙い、日本国債の売却を意図したものであった。この動きに中東、インド、スイス、ブラジルなどが追随した。
○また国内では、200兆を超える国債をもつ「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」がひそか国債を売っているとの不穏な噂も生まれた。郵貯改革法案を棚晒しで経営不振に落ちいっていた両社の苦肉の選択を責めるのは酷である。だがこれが国債売りに拍車をかけた。国債の流通価格は下落し、金利は上昇する。日銀試算では、金利1%上昇は、大手銀で2兆円、地銀で4兆円という。国債は3%を超える金利に跳ね上がった。日経平均株価は3000円台に落ち込んだ。2017年暮れ、円は1ドル=75円と2011年秋の水準に戻った。
○2011年と同じ1ドル75円に戻ったといえ、あの時代とは全く異なる光景であった。震災を乗り越えるスローガン「がんばろう日本!」、「なでしこジャパン」の国民栄誉賞受賞などの高揚した気分から、牛牢の底に横たわるような鬱の空気に変わっていた。自殺者4万人を超え、「平成枯れすすき」が流行り、太宰治の「人間失格」がベストセラーになっていた。
○大企業は、すでに海外生産比率を6割前後に引き上げ、国内には、本社機能、研究機関、マザー工場くらいし残っていない。日本企業は、ウォン安など誘致を準備し、電気料金が日本の半分、法人税が24%(日本40%)と安い韓国との結びつきを強めていた。
○大企業は、グローバル化し、日本ブランドは、世界を闊歩したが、メキシコの街中の「ソニー」商標のハンドバックが象徴するように、ブランドが無国籍化したにすぎない。企業が生き残ることができたからと言って、国の経済が生き残る保証はない。現実は、「国破れて山河あり」ではなく、「国破れて企業あり」となっていたのだ。
老人の暴動
○中高年層に増して若者の失業率は平年の三倍に及ぶ30%に大卒の内定率は20%台に落ち込んだ。大学はでたけれどコンビニバイトでは月収10万円を超えることは困難だ。これでは家賃を払い立ち食い蕎麦を食べるだけでおしまいになる。
○上野の山、隅田川沿い、駅構内に横たわるホームレスに若者の姿が急増し、逆に地方の廃校となった小学校と中学校に住み着く若者が増えた。生活保護申請者が戦後最高の250万人になった。そして、2017年度の物価は、前年比で7%上昇とジャンプした。2018年1月には、円は1ドル90円になり、食糧価格の暴騰で物価が急騰したのだ。
○不況(失業)とインフレ。これこそ、最悪の組み合わせである。鬱状態であった大衆は、ついに憤り立ち上がった。尖兵は、高齢者たちだった。六本木ヒルズに本社を置く大企業の受付で、時限爆弾が爆発するという事件が発生した。数時間後にネット上に出された犯行声明には、「デンデラ同盟」と綴られていた。「デンデラ」とは、2011年に封切られた「年を取ることは罪か。罪ではねえ。年寄りは屑か。屑ではねえ。人だ」と叫ぶシーンのある、姨捨山に追いやられた老婆たちの復讐を描いた映画の題名である。
○やがて件の犯人が捕まった。63歳の10年前にその大企業から退職させられ、「正当な退職金の支払い」を求めていた男であった。彼の単独同盟に若者たちが連鎖し、「デンデラ・ジュニア」を名乗り、あのキャメロン政権下の英国で暴動をおこった「フラッシュ・モブ」となり、都心の繁華街で同様の暴動を起こしたのである。
○一線を引いた団塊の世代が、「高齢者連合」を結成し、国会デモで「年金と医療費削減反対」を叫んだが、叶わぬと見て、日比谷公会堂に立て籠もった。昔取った杵柄だった。
民主主義の鎮魂歌
○あの時代を後世の歴史家は何と呼ぶであろうか。世界のあちこちで民主主義の鎮魂歌が響いていた。この事態を招いた主因は、膨大な財政赤字の累積と、それを削減するために、時の政府が、大鉈を振るったことにある。英国のチャーチルは「民主主義は最悪の政治形態だ。これまでに実施された、他のあらゆる政治形態を除くなら」とのことばを残した。
○民主政治は、問題だらけだが、それに代わる、ましな政治形態はないというわけだ。だが本当にそうなのか。民主主義は、実は根本的な欠陥を有しているのではないか。共産党一党独裁の中国や秘密警察が睨みを効かせる似非民主主義のロシアなどがなぜ世界を闊歩するのか。なぜ、かくも・・・。自由主義国家は底なしの泥沼に足を取られて、あえぎながら自問に自問を重ねていた。(了)
この小説の予測内容の到来度合いの評価はさておき、リーマン以降の、そして昨今のEUユーロの混乱など今日の資本主義経済の凋落という環境のもとにおいて、日本は何をもってこの世紀を生きるのかを考えさせられる論考である。
シュミレーション小説「崩落1ドル50円時代」(要約)文藝春秋10月特別号
水木 楊(作家)
緒言:
「問題は、1ドル=50円ではない。怒濤のような円高の背後で進行していた壮大なスケールのドラマにこそ問題がある。そのドラマの有するマグニチュードの大きさに気づいた人間がごく少数に過ぎなかったのは、不幸なことだった。
フェーズ(局面)を三段階にわけて振り返ってみよう」
フェーズI(2011年9月〜2013年8月まで)
○米国は、リーマン危機後の史上最大の景気刺激策(8千億ドル)が、公共事業を行う各州政府の歳出を補填するものに過ぎず、年末の失業率が10%近づき、1500万人に到達、失敗に終わる。2012年秋大統領選挙は、オバマへの「連邦政府の歳出削減は、金持ち優遇」との批判が広がり、ホワイトハウスから追われ、共和党リック・ペリーが勝利する。
○EUは、信用不安のギリシャとアイルランドからイタリアに波及、ECBはイタリア国債に続き、スペイン、フランスの国債購入に発展。S&Pはドイツ国債を格下げした。
○日本は、政府負債GDP比2倍やゼロ成長も、経常収支の黒字、対外純債権国という面を買われ、円相場は、2012年春に1ドル=70円を記録した。
牛丼は一杯百五十円に
○円高の利益を享受したのは、海外旅行業者。ニューヨーク4泊5日39800円の代物も。金持ちは、海外不動産を買い始め、「リトルジャパン」が出現、ハリウッドで浴衣パーティも。輸入物価は下がり、牛丼は150円となった。アジアからの出稼ぎ労働者が殺到し、建設現場では中国語、マレー語、タガログ語が飛び交った。日本人労働者が、アジア就業者の宿舎を襲撃する事件も頻発した。
○2013年春、1ドル65円に突入。輸出企業は、「最早、生きていない」と言葉を残すも、「これまで通りのやり方では」との言葉が隠されていた。「円高への悲鳴ばかりが聞こえてきたのは、その恩恵に浴していた人たちが、「歓迎」の声を発しなかっただけのことだ。儲けていると誰が声高に叫ぶものか」
○政府・日銀には、円高容認が隠されていた。原発賠償金の捻出にしか頭になかったのである。依存する火力発電に必要な石化燃料を安く買えることから、円高対策は通り一遍に終わる。日銀は、実効レートからみえれば、円高は、必然との認識。この15年間、国内物価は殆ど横ばいなのに対して、米国は、35%も上昇、実勢は1ドル60円という理屈である。
フェーズII(2013年9月から2016年8月まで)
○2015年秋、国内人口が5年前の国勢調査より58万人が減少した。これは、原発事故、東南海地震予知発表にも起因するが、円高で円建て10万円の収入で楽に暮らせる海外在住者が急増しているからという。定年退職後の高齢者が真っ先に海外に脱出した後に続いたのは、若者たちだった。円高で学費の安くなった海外の大学、全寮制の高校、中学校からの勧誘の増加である。また「ワーキングホリデー」を踏み台にして定住を探る若者たちも増え、現地女性と結婚して永住権を狙う動きも。日本の各地には、永住権、グリーンカード取得を支援するための寿司職人、日本語・俳句・アニメ・柔道・合気道・茶道・華道・ダイビングなどの教師やインストラクターになる促成スクールが生まれた。
ドルが基軸通貨から退位
○2015年7月OPECは、ドル建てである石油価格を SDR建てに変更することを決定したことを受け、日本資本の寿司チェーンが円建てクーポン券を発行し、割引を実施した。基軸通貨であるドルの終焉の始まりだが、それに変わる通貨のない「大空位時代」が始まった。度重なる救済策と資金保証を繰り返したことから、FBRは、財務が急速に悪化させ、GDPの60%に当たる8兆ドルの負債を抱える迄になっていた。
○2015年で米国債は16兆ドルと再び連邦政府の債務上限に突き当たる勢いで増加したが、律儀に米国債を買い続けた日本を尻目に、中国は外貨準備に占める米国債比率を下げ、金、スイスフラン、円にシフトし、更に日本の不動産と株を香港とタックスヘブンファンドを隠れ蓑に取得し、政府系投資会社で大量保有報告義務のない5%以下の株式保有をすすめていた。
不吉な兆候
○円が1ドル=60円に達した2015年末、日本の経常収支が赤字に転じた。 エコノミストは、これを「復興事業による輸入増加」「観光収入の減少」に求めたが、2016年度も、赤字終息の気配はなかった。政府部門の負債を家計部門の貯蓄で埋め合わせていた200兆円の余力は、団塊世代の高齢化に伴う年金支払いの増加と生保の財務の悪化で食い潰され、原発の廃炉、徐洗、補償、B型肝炎補償などの国債増発で消えてしまった。
○打つべく手は、思い切った歳出の削減と消費税の引き上げであったが、2011年秋に、財政再建論者の野田佳彦を首相に選んだが、消費税の引き上げもできず、TPPも葬り去られ、「社会保障と税の一体改革」も先送りとなった。日本国債の保有者に占める非居住者の比率が13%に急増し、国債相場は、非居住者の頻繁な売買高に左右され始めた。
フェーズIII(2016年夏以降)
○2016年秋円は1ドル50円を記録した。しかしこれは、恐ろしいほどの「円安」への逆流の始まりだった。2016年11月に再選を果たしたペリー大統領は、翌年1月の一般教書で、「フリーランチ(ただめし)の時代は終わった」と宣言し、国防予算を大胆に削減する予算教書を「世界新秩序の確立」と銘打って発表した。それは、「世界の警察官」であることを止めるということだ。2001年に世界の32%を占めていた米国GDPは、すでに20%を割り込み主要通貨に対するドル価値のインデックスは、2002年対比で四割も下がっていた。
○マスコミが「新モンロー主義」と呼ぶペリーの宣言は、米国の生命戦を中東を除くアジアではグアム以東に変更するというものであった。それは、沖縄を含む極東の放棄であった。その空白に中国は、新設空母を配備し、2017年夏、ついに尖閣諸島魚釣島に上陸し五星紅旗を打ち立てた。日本政府は抗議し北京大使の召還を断行したが、逆に中国は「沖縄本島に潜在的な主権がある」との非公式見解を流し始めた。
ついに国債暴落
○2017年夏、円は「有事に弱い」通貨を露呈し、1ドル60円に逆戻りした。中国政府は、突如現状のドルペッグから離別し、変動価格制に移行し、1ドル6元台から3.5 元に急上昇した。この措置は、インフレ抑制とされていたが、強い元を生かす資産形成を狙い、日本国債の売却を意図したものであった。この動きに中東、インド、スイス、ブラジルなどが追随した。
○また国内では、200兆を超える国債をもつ「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」がひそか国債を売っているとの不穏な噂も生まれた。郵貯改革法案を棚晒しで経営不振に落ちいっていた両社の苦肉の選択を責めるのは酷である。だがこれが国債売りに拍車をかけた。国債の流通価格は下落し、金利は上昇する。日銀試算では、金利1%上昇は、大手銀で2兆円、地銀で4兆円という。国債は3%を超える金利に跳ね上がった。日経平均株価は3000円台に落ち込んだ。2017年暮れ、円は1ドル=75円と2011年秋の水準に戻った。
○2011年と同じ1ドル75円に戻ったといえ、あの時代とは全く異なる光景であった。震災を乗り越えるスローガン「がんばろう日本!」、「なでしこジャパン」の国民栄誉賞受賞などの高揚した気分から、牛牢の底に横たわるような鬱の空気に変わっていた。自殺者4万人を超え、「平成枯れすすき」が流行り、太宰治の「人間失格」がベストセラーになっていた。
○大企業は、すでに海外生産比率を6割前後に引き上げ、国内には、本社機能、研究機関、マザー工場くらいし残っていない。日本企業は、ウォン安など誘致を準備し、電気料金が日本の半分、法人税が24%(日本40%)と安い韓国との結びつきを強めていた。
○大企業は、グローバル化し、日本ブランドは、世界を闊歩したが、メキシコの街中の「ソニー」商標のハンドバックが象徴するように、ブランドが無国籍化したにすぎない。企業が生き残ることができたからと言って、国の経済が生き残る保証はない。現実は、「国破れて山河あり」ではなく、「国破れて企業あり」となっていたのだ。
老人の暴動
○中高年層に増して若者の失業率は平年の三倍に及ぶ30%に大卒の内定率は20%台に落ち込んだ。大学はでたけれどコンビニバイトでは月収10万円を超えることは困難だ。これでは家賃を払い立ち食い蕎麦を食べるだけでおしまいになる。
○上野の山、隅田川沿い、駅構内に横たわるホームレスに若者の姿が急増し、逆に地方の廃校となった小学校と中学校に住み着く若者が増えた。生活保護申請者が戦後最高の250万人になった。そして、2017年度の物価は、前年比で7%上昇とジャンプした。2018年1月には、円は1ドル90円になり、食糧価格の暴騰で物価が急騰したのだ。
○不況(失業)とインフレ。これこそ、最悪の組み合わせである。鬱状態であった大衆は、ついに憤り立ち上がった。尖兵は、高齢者たちだった。六本木ヒルズに本社を置く大企業の受付で、時限爆弾が爆発するという事件が発生した。数時間後にネット上に出された犯行声明には、「デンデラ同盟」と綴られていた。「デンデラ」とは、2011年に封切られた「年を取ることは罪か。罪ではねえ。年寄りは屑か。屑ではねえ。人だ」と叫ぶシーンのある、姨捨山に追いやられた老婆たちの復讐を描いた映画の題名である。
○やがて件の犯人が捕まった。63歳の10年前にその大企業から退職させられ、「正当な退職金の支払い」を求めていた男であった。彼の単独同盟に若者たちが連鎖し、「デンデラ・ジュニア」を名乗り、あのキャメロン政権下の英国で暴動をおこった「フラッシュ・モブ」となり、都心の繁華街で同様の暴動を起こしたのである。
○一線を引いた団塊の世代が、「高齢者連合」を結成し、国会デモで「年金と医療費削減反対」を叫んだが、叶わぬと見て、日比谷公会堂に立て籠もった。昔取った杵柄だった。
民主主義の鎮魂歌
○あの時代を後世の歴史家は何と呼ぶであろうか。世界のあちこちで民主主義の鎮魂歌が響いていた。この事態を招いた主因は、膨大な財政赤字の累積と、それを削減するために、時の政府が、大鉈を振るったことにある。英国のチャーチルは「民主主義は最悪の政治形態だ。これまでに実施された、他のあらゆる政治形態を除くなら」とのことばを残した。
○民主政治は、問題だらけだが、それに代わる、ましな政治形態はないというわけだ。だが本当にそうなのか。民主主義は、実は根本的な欠陥を有しているのではないか。共産党一党独裁の中国や秘密警察が睨みを効かせる似非民主主義のロシアなどがなぜ世界を闊歩するのか。なぜ、かくも・・・。自由主義国家は底なしの泥沼に足を取られて、あえぎながら自問に自問を重ねていた。(了)
by inmylife-after60
| 2011-09-13 16:11
| 経済危機・投資
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