2016年 04月 07日
佐藤優「世界史の極意」ノート(2-1) |
佐藤優「世界史の極意」
NHK出版新書2015年1月10日第一刷印刷
序章「歴史は悲劇を繰り返すのか」エリック・ホブズボーム
「20世紀の31年戦争」とその後の戦争継続の現実
「現代がどのような時代であるかを完璧に説明することなどできません。そこで過去の歴史的な状況との類比(アナロジー)を考えることによって、現代を理解するという作業が必要になるのです。」
「この作業は、現在を理解するための「大きな物語」を作ることだと言い換えることができます。」
「大きな物語とは、社会全体で共有できるような価値や思想の体系のことです。」
「人間は本質的に物語を好みます。知識人が大きな物語をつくって提示しなければ、その間隙をグロテスクな物語が埋めてしまうのです。つまり知識人が大きな物語を作らないと人々の物語を読み取る能力は著しく低下するのです。」p22
第一章:多角化する世界を読み解く極意
「かつて仕事をしていた外交の世界では、特定の対象を分析するときには、イデオロギーに目を眩ませられずに、相手や対象がどんな意図や倫理で行動しているのかを把握することが重要でした。これを「対象の内在的な論理を知る」と表現します。
宇野弘藏もまた資本主義の内在的論理を見極めたのです。」P57
「マルクスは、資本主義の本質を「労働力の商品化」と捉えました。
労働力の商品化には、二重の自由がないといけません。第一に身分的な制約と土地への拘束から離れて自由で移動できること(契約拒否の自由)第二に、自分の土地と生産手段をもっていないこと。(生産手段からの自由)が必要であった。
「この自由な人はどのようやって生活するか。自分の労働力を商品化する、つまり労働力を売って生活するのです。その時の労働力の価値である賃金はどう決まるのでしょうか。それには3つの要素があります。
第一は、次の一ヶ月働けるだけの体力を維持するに足るお金でなければならない。第二は継続して家族をもち、子供を育てて労働者として働けるお金であること。第三に技術進歩に対応できる自己教育のためのお金です。」P58
「世界市場で労働力の商品化は、歴史的偶然によってイギリスでおきました。きっかけは、15世紀から16世紀におきた「囲い込み(エンクロージヤー)」です。P59
「イギリスは、牧草を育てるに適した土地があったこと、スペインやポルトガルがカトリックの国であったのと異なり、カルヴァン派のプロテスタンティズムであったために独特のテースト(倫理)があり、禁欲的に富を蓄積し、投資に向ける資質をもっていたことである。」P63
「インド綿花(キャラコ)に対抗するには、イギリスでも綿花を作るしかない。しかもキャラコに勝つためには大量に生産し安く売らなければならない。この外からの輸入品に勝つために始まったのが、産業革命であり、紡織機や織機が次々に発明されたのです。」P64
「アメリカで第二次世界大戦以降本格的な恐慌が起きていないのは何故か。それはアメリカの公共事業に戦争が組み込まれているからです。朝鮮戦争、越南戦争はアメリカの公共事業である。」(P68)
「帝国主義の時代にはかならず二つの異なったベクトルが働きます、一つがグローバル化であり、もう一つが国家機能の強化です。」P79
「アベノミクスによる円安株高の恩恵を受けられるのは、巨大な輸出産業と金融資産をもつ富裕層に限られると同じです。
「そうなると労働者階級の再生産もできなくなる。つまり貧乏人は、結婚も出産もできない。貧困の連鎖が続き、中産階級が育たないので国力も低下する。」P80
「歴史にはドイツ語で「ゲシヒテ」と「ヒストリー」という二つの概念があります。後者は、年代順に出来事を客観的に記述する編年体のこと。対して前者の「ゲシヒテ」は、歴史上の出来事の連鎖にはかならず意味があるというスタンスで記述されています。」P84
「戦後の平和教育は、東西冷戦下の枠組みで行われきました。そのために冷戦終結とともにその有効性は失われてしまった。そもそもこの段階で単なるヒストリーを越えた歴史教育の新たな方向性を模索すべきでした。しかし知識人はその作業を怠りました。その結果、いまや貧困かつ粗雑な歴史観が跋扈し、それがヘイトスピーチや極端な自国至上主義として表れています。
だからこそ、私たちは歴史をアナロジカルに捉えなければならない。日本の歴史教科書を読めば最低限の基礎知識は身につくでしょう。しかしその知識を他の知識と結びつけて理解し現状を正確に把握することは訓練なしにできません。イギリスの歴史教科書は、獲得した知識をアナロジカルに活用するための格好の書です。」(P87)
第二章:民族問題を読み解く極意
ウエストファリア条約の意義
「ウエストファリア条約(1648年)は、カルヴァン派の信仰が認められるとともに、ヨーロッパの主権国家体制が確立しました。つまり宗教戦争は終結し、神聖ローマ帝国内の各領邦国家も含めてそれぞれの国が内政権と外交権を有する主権国家として認められたわけです。」(P101)
「このウエストファリア条約こそが「主権国家によって構成されるヨーロッパ」という世界秩序をつくりあげ、戦争をもたらしたカトリックとプロテスタントの長年にわたる対立に終止符を打ったことでまさに中世と近代を画する結節点となったのです。」(P102)
「ウエストファリア条約によって主権国家システムは成立しましたが、いまだに「国民」と「民族」と訳される近代的なネイションは生まれていません。近代的なネイションは1789年のフランス革命によって誕生します。
男性普通選挙を含む憲法の制定、徴兵制の実施など領域内の住民が国家の政治に参加する権利をもつと同時に住民自らが兵士となって国家を守る、このような国民(nation)と国家(state)が一体となった国家を「国民国家(nation state)」と言います。(P104)
「ナポレオン全盛期には、ロシアを除くヨーロッパ大陸のほとんどを支配下におきます。西南ドイツ諸国も支配下に置いたことで1809年神聖ローマ帝国も完全に消滅しました。ナポレオンによって征服された国々では、民族意識や国民意識の覚醒を訴えるナショナリズムが発揚していくのです。(P104~P105)
「フランス革命以降に広がったナショナリズムが中東欧において複雑な民族問題を構成し、第一次世界大戦の背景となっていった。この流れを押さえておいてください。(P108)
「ナショナリズム論の三銃士」
①ベネディクト・アンダーソン「想像の共同体」
・原初主義—言語、血筋。地域、経済、宗教、文化—共通性
・道具主義—「出版用の言語」「国語と標準語」「われわれ」という意識
・「公式ナショナリズム」「国王の国民化現象」
②アーネスト・ゲルナー「民族とナショナリズム」
「ナショナリズムの思想があってナショナリズム運動が起こるのではなく、ナショナリズムの運動があって、ナショナリズムの思想が生まれる。」
間違った4つの見方
1.自然、自明、自己発生的である
2.観念の産物、消去できない。
3.「宛先違い」とする見解。
4.「先祖の血」「土地の暗部の再現」
産業社会とナショナリズム
・「産業社会でないと人々の文化的同一性は生まれない。」
③アントニー・スミス「ナショナリズムの生命力」「ネイションとエスニシティ」
・「エトニ」とは、共通の先祖・歴史・文化をもち、ある特定の領域との結びつきを持ち、
内部での連帯感をもつ名前をもった人間集団」である。
・ネイションは、必ずエトニをもつが、その逆は真ではない。またネイションが民族をもつ場合も限られる。
・エトニが「歴史」と結びつくことで政治的な力が生まれ、この力が「民族」に転嫁する。
この歴史は、実証性は要求されない。物語(=「ゲシエテ」としての歴史です。
・エトニがあるからネイションができるのではなく、ネイションができるからエトニが発見されるのです。
ネイションという言葉の語源は、ラテン語の「ナチオ(nation)」です。ナチオとは、中世の大学のなかで出身地を同じくするサークルのことを言います。日本語に訳せば、「郷士会」「同郷会」になります。p123
by inmylife-after60
| 2016-04-07 11:41
| 歴史認識・歴史学習
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