2017年 08月 17日
「脱原発!フランスでも」(岩波「世界」9月号)を読む |
「脱原発!フランスでも」(岩波「世界」9月号)を読む
岩波「世界」9月号に「脱原発!フランスでも」と題する論考(著者:赤木昭夫)が掲載された。
福島原発以降、ドイツにおける2022年末までの原発全廃の意思決定は注目を引いたが、フランスは、依然として原発大国として、原発全廃の意思決定はなされていないと思っていたが、この論考を読んで、オランド政権下の2015年7月に「緑の育成のためのエネルギー転換法」を成立させて、COP21によるパリ協定に準拠した2050年における原発全廃に至る方針とその具体化をすすめていることを初めて知った。
本論考は、その結論に至る方法とその実現にむけた手法について、分かり易く解説と論証を試みており、一読に値するとの思いで紹介したい。
主な論点は、
1)原発に関するコスト分析の手法
2)原発の将来費用に関する定性的な捕捉の手法
3)地球温室ガス削減に関する達成手法
の3つである。
この論考は、上記1)と2)を2012年1月に発表された会計検査院による「原子力分野のコスト」(英語版432頁)から、3)を「緑の育成のためのエネルギー転換法」から検証するものである。
1)原発に関するコスト分析の手法
会計監査の基本に即して、原発建設、運転(燃料と人件費)、研究開発、解体、燃料サイクル、放射能廃棄物処理に関する費用を過去、現在、将来の3期毎に検証し、過去、現在、将来のコストとして算出されていると言う。
しかし、この数値は、あくまで参考資料として、その理由を以下のように解説していると言う。
①技術的に将来伸びるのか、壁にぶつかるのかが不確実であること。
②3期毎の様態は異なり、価格化することが困難であること。とりわけ廃棄物処理はその典型であること。
③これらのコストをいつ、どのように計上するかで数値はどのようにもはじけること。
この実態は、福島の廃炉費用における当初東電の試算見積もりと現状における廃炉費用積算の激増をみれば歴然である。将来試算はまったく不確実極まりない代物に他ならない。
2)原発の将来費用に関する定性的な捕捉の手法
そこでぞれぞれの費用について、コストは一定の値に収斂するのか、それとも時期を経る毎により手間がかかるようになるのか、つまりコストが確定するようになるのか、上昇を続けるのかの何れかを明らかにする手法をとった。つまり各費用のもつ定性的な側面に注目し、これを捕捉することによって「原発の本質は、不確実で、それが故に安くならず、高くなる一方だ」とする結論を導き出したのである。
筆書は、「『歴史学の任務のひとつは、現在の様々な不安な問題に答えをだすことである』と歴史学のコペルニクスと称されるフェルナン・ブローディル(1902年~1985年)が喝破した。さすがに彼を生み出した国に相応しい、歴史主義に則った会計監査報告、その近年の模範が『原子力分野のコスト』だと評価されている」と紹介している。またこのような試算をなぜ会計監査院に下命されたのは、フランスのもつユニークな国家会計監査制度のなせる業だという。ここではその詳論は触れない。
3)地球温室ガス削減に関する達成手法
「緑の育成のためのエネルギー転換法」は、2050年には、温室効果ガスを現在の排出量の75%削減し、排出量の現在の25%とする目標を設定している。
原発は現在電源構成の70%を占めるが、2025年に50%以内として、2050年に全廃するとする。
その実現のための対策は、省エネルギーという。75%のうち、50%の削減量は、供給と消費の両面でのエネルギー効率の向上とエネルギーの節約、つまりエネルギーを使わず、無駄を省くことであるという。技術でなくライフスタイルの革命によって達成するというものである。
そのライフスタイルの革命の促進策として登場するのが、炭素税である。日本の炭素税による課税規模は、CO21トン当たり3ドルだが、フランスは33ドル、2020年には62ドル、2050年は111ドルにするという。
各国の炭素税導入事例は以下の通りである。https://www.env.go.jp/policy/tax/misc_jokyo/attach/intro_situation.pdf#search=%27フランスの炭素税%27
日本の通産産業省によるエネルギー計画の見直しは、まったくパラダイムの論議がなく、安易な根拠のない安全神話に依拠した原発再稼働であり、標準稼働年数を40年から60年へとするこれも根拠のない延命策に他ならない。関西電力の原発再稼働に伴う電気料金の値下げ表明は、あたかも原発コストへの幻影をまき散らす無責任極まりない感覚であり、世界に名だたる地震国の沿岸で稼働する原発の危うさに無感覚な経営姿勢である。
筆者は、『温室効果ガスを出さないから、気象変動阻止のため,原発を拡大しなければならないとする論理は成り立たないし、許してはならないのだ。繰り返すが、原発は再生可能エネルギーを伸ばすことを妨げ、なにが正義かを曖昧にしてしまう。公正か不公正かの問題は、気候変動阻止の国際協力体制を盛り立てていく上でも同じように問われている。ずばり言ってしまえば、原発が可能な国と不可能な国とでは、不公平だとする言い分が出かけないのだ』と警告する。
原発再稼働はいかなる名目であれ、地球温暖化とともに生命の星:地球を死に追いやる自殺行為であることは疑いない。
by inmylife-after60
| 2017-08-17 16:06
| 震災・原発・廃炉
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