2017年 12月 17日
戦争は人の心の中で生まれるものである |
教育が「憲法の理想」を実現する〜夜間中学という問いかけ〜を読む
〜「戦争は人の心の中で生まれるものである」〜
加計学園の獣医学部戦略特区認可に対して、「行政を歪める政権の介入があった」と国会証人尋問で証言した前文部科学省事務次官:前川喜平氏による講演録を岩波書店「世界」1月号で読んだ。その論旨を紹介する。
1)夜間中学のはじまりから現況まで
夜間中学は、1947年義務教育を6年制から9年制にし、中学校を新設する学制改革に始まる。夜間中学は、戦後の荒廃した生活環境で昼間の中学に行けない子供達のために、昼間中学の先生達による草の根活動から始まった。最盛期の1955年には全国で89学校5200人の夜間中学生が通っていた。しかし66年当時の行政管理庁(現総務省)は夜間中学の廃止を勧告し、文部省もこれに追随し、全国の教育委員会に閉鎖を指導した。
これに対して67年荒川第9中学夜間学級を卒業した生徒:高野雅夫さんは、夜間中学生の姿を記録したドキュメンタリー映画「夜間中学校」を製作し、全国を巡回し、夜間中学の必要性を訴えたことにより、学齢を過ぎた人びとに対する夜間中学校の存在意義が広まることとなった。
このなかで、差別と国籍のために教育機会を逸した部落出身者や在日朝鮮人たちが、夜間中学へ通い始め、72年日中国交回復以降には、旧満州からの引き揚げ者、帰国者への教育機会として利用されることになった。
80年代以降は、今日の「不登校」に当たる「登校拒否」が社会問題化し、不登校のまま学齢を終えた人びとへの受け皿となった。
しかし90年文部省は、不登校児童に対して、形式的に卒業を認めた「形式卒業者」に対して、夜間中学への入学を認めない措置をとり、夜間中学は減少する。漸く2015年に「入学希望既卒者」として「形式卒業者」の受入が実現する。
現在全国に31校の夜間中学で中国、韓国、フィリピン、最近ではベトナム、ネパールなどを含む1800人の生徒が学んでいると言う。
2)アメリカとは異なる社会権を巡る日本国憲法について
2016年、学齢を超えた人びとの学ぶ場を提供することを目的に成立した「教育機会確保法」は、その前提認識として、「憲法13条:個人の尊厳(基本的人権)」:「一人ひとりの国民が個人としてかけがえのない価値をもつ」ことをふまえたものであり、何ものにもかえがたいこれらの権利を国家権力が奪い、侵害しないように国を縛るもの、それが憲法であるという理念を基礎に生まれたものである。
基本的人権のなかで、第26条の「学習権:教育を受ける権利」は全ての人権の基盤となるものであり、学習することができなければ、自らの尊厳も権利を主張することができないからである。
トランプ政権は、2017年10月ユネスコからの脱退を宣言した。教育に関する限りアメリカという国はお手本にならない。
アメリカに押し付けられた憲法と言われる日本の憲法には、アメリカ合衆国憲法にはない26条の「学習権」だけでなく、第25条の「生存権」をもつ。つまり人間が人間らしく生きるために必要なことを要求できる社会権の規定は、アメリカ合衆国憲法にはない。
3)「教育は憲法の理想を実現する」について
日本の教育基本法は憲法に先立ち、2ヶ月ほど早く発効した。2006年に改正される前の教育基本法には、「日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設し、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現には根本において教育の力をまつべきものである」と謳った。
前文はその実現に関わって「われわれは、個人の尊厳を重んじて、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。」とし、「ここに日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい教育の基本を確立するために、この法律を制定する。」とした。つまり教育の目的は憲法の理想の実現にあることを明確にしたと言う。
日本の国際社会への正式な復帰は、1956年の国連加盟だが、国際社会へのデビューは、占領下の1951年ユネスコへの加盟であったと言う。
ユネスコ憲章は全文冒頭に「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人のこころのなかで平和のとりでを築かなければならない。」という言葉をもつ。
筆者は「たとえば、隣国の人のことを良く知らないと何か悪いことをするのではないかと不安や不満が募り、憎悪と敵視の対象となって、相手は悪いやつだと思い込むようになる。こうして「無知」が根本原因で最後に戦争に至るということは起こりかねない。だから隣国の人たちのことについて学ぶことは非常に大事です。」と言う。
4)教育機会確保法について
2014年4月、自民党から共産党までの超党派の議員連盟が結成され、夜間中学を支援するために2016年12月に教育機会確保法が成立し、「年齢や国籍を超えて学ぶ権利」を明確にし、2017年には現行の中学の二部制の形態に拘ることなく、「全都道府県にすくなくとも一つ」の夜間中学の設置を目指すことが方針化されたと言う。
国勢調査によれば、小学校を卒業していない「未就学者」は外国籍を含めて12万8000人がいる。全国夜間中学校研究会はニーズを百数十万人と推計する。
筆者は、「近隣にもう一度学びたいという人がいたら、是非声をかけて頂きたい」という言葉で締めくくった。
追記
全国の夜間中学開設に関する情報は以下のサイトより取得できます。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/yakan/1364960.htm
by inmylife-after60
| 2017-12-17 17:51
| 政治・外交・反戦
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