2019年 02月 16日
『大学生5200人に「戦後現代史」を問う』 |
大学生5200人に「戦後現代史」を問う
〜2019年「戦後現代史」調査報告書2019年版〜
この報告書は、2月15日大学生5200人のアンケート調査をもとに大学における学生の現代史教育に関する問題を考えるために発行しました。
本調査報告書は、憲法改正と移民拡大の動きを意識して、憲法9条改正と移民政策に関する学生の意識の現状とともに、憲法改正の論議の前提となる認識〜米軍と自衛隊の関係、沖縄の現状、日米地位協定など戦後史に関する基本的な理解度に関する現状を知るデータと学生からの生の意見集(753通)を掲載しました。
また調査結果をどう見るか、この問題を理解するには、知っておくべき事項とともにどう捉えるべきかという大学教員や市民団体関係者(9名)からのコメントを頂き、専門外の教員や学生に対する理解を深める構成にしました。
とりわけ教員の方々にご協力を頂きたいことは、単に歴史科目に関わる教員のみならず、あらゆる学科の教員が、「いま」に繋がる過去の歴史に関する認識を、未来を生きる学生と共有することを目指す授業を1コマでももってほしいということです。
また同時に学生のおかれた情報入手の環境への対応です。学生はほとんど新聞を読みません。テレビとスマホからのネット環境を通じて情報を得ています。そこには一次情報なのか、二次情報(加工情報)なのかを判断せず、それに同調しやすい傾向をもち、検索先のYahooの情報が「一次情報」となり、その論調に支配される傾向にあります。
例えば、徴用工を巡る問題でも、毎日新聞は社説で「韓国最高裁の徴用工判決 条約の一方的な解釈変更」と題して、「日本が1965年に締結した日韓条約により拠出した3億ドルで徴用工被害者補償問題は解決しており、韓国側の一方的な解釈変更であり、国際法の規範を歪め、日韓関係の大きな対立は避けられない」と報道しています。
だとすれば、鹿島建設が5億円を拠出し和解した2000年花岡事件、「消滅したのは外交保護権であって、請求権そのものではない」とした2007年西松建設最高裁判決、そして一人当たり10万元(日本円換算約180万円)の支払いと追悼事業支援で合意した2016年三菱マテリアル和解をどうみるべきかが問われることになります。
そもそも中国人及び朝鮮人の徴用工問題の発端は、日本政府の1942年閣議決定と1943年「国民動員実施計画」にあり、しかも徴用工を受け入れた35社にのぼる日本企業は、戦後「被害を被った」として1946年総額5672万円(現在貨幣価値:推定283億円)の補償金を受けていたことにあることなど全く知られていません。
このような事例は枚挙にいとまがない。
大学生がこれから社会に生きて行くために、日本が体験した歴史的プロセスを共有することがますます求められていると言えます。
【今後すすめて行きたいこと】
1)「現在」に繋がる近現代に関わる史実を題材にする授業を!
・学生の高校時代までの日本戦後現代史の履修率は、平均で35%、理系で20%に過ぎない。戦後現代史を対する学習機会は大学にしかない状況にある。
・大学教員が、1コマでもよいので、学生の近現代史への興味と関心を掻き立てる授業を用意する。
・学生の近現代史学習機会は歴史科目だけが担うものでなく、歴学以外の学部学科において、現在に繋がる歴史的過去(近現代史)を題材する授業を用意する。
・各学会レベルの活動として現代史の題材(素材)に関する集積機能をもつネットワーク活動を位置づけるための提起を行う。
2)憲法9条改正〜まずは前提的認識に関する論議を!
・憲法改正に関わる論議に参加する場合、戦後の「世界史と日本」との関係を抜きに語れない。国際・国内政治、憲法判決、核及び軍事戦略等の理解が欠かせない。
・自分の政治的な意見や立場を明らかにすることへの抑制が非常に強く、グループの関係が壊れたり、相手から嫌われはしないかを非常に気にする傾向が強い。
・日本の現在の統治に関わる構造的問題〜サンフランシスコ条約条約、日米安保、地位協定によって規定される問題を避けることなく論議すること。
・戦後のGHQ占領から「「日米行政協定」を経て「日米地位協定」に至る結節点における日米交渉プロセス(密約を含む)を明確にすること。
・上記の交渉プロセスにおける在日駐留米軍の指揮権確立と自衛隊、沖縄占領に伴う自衛隊の位置、米軍指揮下の演習一体化など実態を明確にすること。
・地位協定に伴う各種犯罪・事故事案の捜査逮捕権や民間航空機の空域設定、米軍基地への環境アセス権などの実態を明確にすること。
3)大学における授業方法に関する研究と交流の場づくりを!
・アメリカの大学のゼミの経験として、教員は学生の発言をいかにセーブすることに腐心するのに対して、日本は全く逆にいかに意見を言わせるかに苦労する。
・大学の先生は教育実習という場がない。大学の教員間に授業の相互交流の機会はない。自分の受けたゼミの先生から習った方法を模倣する。
・学生はフラット・対等な関係のなかで、問題を整理し、問題に孕む因果関係を調べて、課題を見つけるというような場を経験できていない。
・企業は、海外赴任者へのサポートもなく、帰任した職員へのフォローアップもない。更に辞めた職員は会社OB会にも入れないという。
・学生が「質問できる(聞ける)」場が不可欠。グループで「聴く」「聴き合う」ことから始める。生徒同士が聴き合っている間、先生は関与しない。
by inmylife-after60
| 2019-02-16 12:45
| 歴史認識・歴史学習
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