2019年 06月 02日
イージスアショアと水陸機動団の愚策 |
イージスアショアと水陸機動団の愚策
5月25日に開催された市川・浦安市民連合が主催した講演会に参加した方から、講演者の一人軍事ジャーナリストの田岡俊次さんが当日配布した「二つの壮大な無駄」と題する文書を頂いた。
そこには、現在秋田と萩への配備強行で揺れる「イージスアショア」と佐世保相浦基地に創設された「日本版海兵隊」と言われ、佐賀へのオスプレイ配備に対する漁協による反対のなかで、強行した木更津への暫定配備そして、270メートルの強襲揚陸艦の接岸機能をもつ辺野古基地建設との関連をもつ「水陸機動団」に関する詳細なコメントが記されていた。
現在の自衛隊に関する装備変更は、日米貿易交渉に伴うアメリカからの要求に基づく配備購入として続いており、現実の日本防衛には資することのない装備、また実戦に効力を発揮しない「張り子の虎」にちかい装備である一方で、実際は隊員のトイレットペーパーも節約しなければならないという自衛隊の倒錯した実態は知っていたが、イージスアショアの日本配備も、現役将官が首を傾げる有様だという。また日本版水陸機動団は全滅する公算が大であると言う。その論拠を紹介したい。
以下配布レジュメの全文(見出しは筆者)
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2つの壮大な無駄
田岡 俊次
「財政危機の中防衛予算は増大しているが、無駄なものはないのかとの質問、これはなかなか難しい質問であって、憲法第9 条を字義通りに解釈するならば、「防衛予算は10 0 %無駄」とも言えるし、他方日本のGDP 549 兆円(2018年) に対し、今年度の防衛予算(当初)は5 兆2574 憶円で、なお1%以下。主要国の中では極めて低率であり、全体的に見て抑制的とも言える。
そこで今回は日本が自衛のための武力を持つことを前提として、それに不必要、あるいは非合理的な巨額な支出を伴うイージスアショアと水陸機動団の問題を指摘することにした。
この種の講演では多くの数字や部隊、装備の名称、その他の軍事用語が入ることは不可避であり、正確なメモを取られるのは困難と考え、あらかじめメモを作成、配付してご理解の一助としたい。
【自衛隊も望まない装備の押し付け】
『イージスアショア』は本来ソ連の爆撃機が発射する空対艦ミサイルから空母を守る巡洋艦、駆逐艦用に開発され、後に弾道ミサイル迎撃用の「SM 3 ブロック1 」 ミサイルも搭載。これは能力不足で、日米共同で「SM3 ブロック2」を開発した。日本は「SM3プロッタ1」搭載のイージス艦4隻を保有していた。 2016 年8 月「弾道ミサイル破壊措置命令」で常時2 隻を日本海などに配備、2018 年6 月1 2 日の第1回米朝首脳会談まで継続した。
軍艦は年に約3 か月ドック入りし、整備点検。可動3 隻中2 隻を出動させ続けるのは辛い。「防衛計画の大網」(2013 年決定約10 年先まで見通し)で弾道ミザイル迎撃用ミザイル搭載のイージス艦を8 隻にすることを決定。「あたご」「あしがら」 を改装、7 隻目の「まや」 (10250t) が2018 年7 月進水、8 隻目は2021 年3 月就役し8 隻体制が完成。6 隻出動可能となれば、常時2 隻を出し続けられ十分対処できるとしていた。
【イージス艦のミサイル弾頭は1発16億円】
「イージスアショア」の導入は自衛隊が求めたものではなく、米国の要求を政府が呑み、陸上自衛隊に押し付けた。
だがイージス艦は1 隻に90 発ないし96 発の各種ミサイル搭載可能なところ、弾道ミサイル迎撃用のSM3 ブロック1 (射程1200 km) は各艦8発しか搭載していない。1 発約1 6 憶円もしたためだ。
北朝鮮は日本を射程に入れる中距離弾道ミサイル数百発を保有、核弾頭は20 発程度としても、通常(火薬)弾頭のものと核弾頭付きのものを交ぜて発射してくると、最初の8 発に対処するのが精々で、8 発撃つと「任務終了、帰投します。」とならざるをえない。航空自衛隊のミサイル防衛用の短射程ミサイル「PAC3」も同様で、34 輌の発射機は各1 6 発を積めるが、1発約4嬉円だから4発しか入れていない。1 地点防衛に2 輌をあてるが、1 目標に2 発ずつ発射するから4 目標にしか対処できない。
政府は「万全の態勢」と言うが、これでは形ばかりの気休めでしかない。「イージスアショアを入れるよりも弾数を増やすほうが合理的では」とミサイル防衛に携わった高級幹部たちに言うと、ほぼ例外なく「おっしゃる通りです。」との反応が返る。
【日本を守るためであれば、軌道は能登半島と隠岐の島を通過】
制服幹部たちが首を傾げるような大規模な計画を、突然米国が言うまま押し付け、地元に対しでたらめな説明をしている。「日本全域を守るには秋田、山口に配備するのが最善」と言うが、その根拠を担当の防衛省幹部も答えられない。
北朝鮮北部の山岳地帯のトンネルに隠れている弾道ミサイルは、東京に向かうのなら能登半島上空を通り、大阪に向かうなら隠岐の島上空を通過する。時速1 万km ないし2 万km以上で飛ぶ弾道ミサイルを迎撃するには、真正面的行うのが理想的で、横方向からだと命中率は低下する。山口は、北朝鮮からグアムに向かうコースのすぐ真下。秋田はハワイに向かう軌道の下だ。米国はルーマニア南部とポーランド北部にイージスアショアの配備を進めているが、1 か所に約8 億ドルの経費は米国が全額を負強する。日本に対しても、当初は800億円程度と言っていたが、昨年12 月1 8 日に導入を決めると1 基1340 憶ドル(約1480 憶円)に釣り上げ日本が全額を出す。( 2 基で3000 憶円)。
だが交換部品、維持費、要員の米国での教育訓練費等を含むと、米国への支払いは4664 億円。ミサイル弾頭は別売りで1 発35 憶円ないし40 憶円、1 基の定数は24 発だから、48 発で1700億円は掛かると思われる。さらに米国は新型レーダーLMSSR の試験擁設建設費用500 億円も要求している。このレーダーは米国本土ミサイル防衛用に開発中で、その費用を日本に出させようとしている。
【FMSの契約価格は米国のいいなりで代金は前払い】
米国防省と防衛省の問で米国製兵器を輸入する「FMS」 (対外有償軍事援助)は本来が「有償援助」だったから、契約価務も納期も国側の見積もりにすぎず、米国のー存で変えられ、代金は前払いだ。イージスアショアの納期は2023 年と言ったが、2025 年に延ばしてきた。FMS で契約した交換部品などが来ないことは日常的で、2018 年3 月末現在で納期より1 年以上届かない未納入が351 億円、払い戻しなどの清算が2 年以上遅れているものが520 億円、計871 億円だ。
【安倍政権のFMSは、発足時対比5倍の金額、返済は補正予算へ】
FMS による発注は安倍政権発足の2012 年に1372 億円だったが、今年度には7013 億円と5 倍余になった。毎年の予算書に出る装備の調達費は、頭金とローン支払いで、今年度の後年度負担額(ローン返済)は2 兆4013 億円(前年比20.4%増)に達する。防衛予算は20 1 9 年度当初予算では5 兆2574億円で20 18 年のGDP548 兆円の0.96% に収まっていると見えるが、2018 年12 月の第2 次補正予算では3998 憶円を計上しており、今年度もローン返済を補正予算に回している。予測できる政策的経費を補正予算で支出するのは本来の趣旨に反し、まやかしと言えよう。】
またイージスアショアの配備地点については、秋田市の陸自「新屋演習場」 は秋田商業高校のすぐ裏で、小野寺前防衛相は視察後にテレビで「あんな所とは思わなかった。」 と述べた。萩市の「むつみ演習場」は日本海岸から約10km南の山地で、その約1 Km北に阿武町の集落があり、強力なレーダー電波による障害が懸念される。
【「水陸機動団」は日本版海兵隊】
陸上自衛隊の「水陸機動団」は2002 年に編成された「西部方面普通科連隊」を拡大して、昨年3月27 日に佐世保の相浦駐屯地で正式に創設され、現在2100 名余、今後3000 人規模になる。離島が外国に占領された場合、上陸作戦で奪回することを主任務とする日本版海兵隊。
その輸送用に垂直離着陸輸送機オスプレイV22 を17 機、1 機約330 憶円(エンジン40機など予備部品、訓練費を含む)や水陸両用装甲車AAV7 を58 輌(1輌7 憧円、1 960 年代に開発)などを米国から購入。
「おおすみ」級輸送艦(満載14200t) 3 隻を揚陸艦に改装。ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」が (満載24000t) を短距離発艦可能なF35B(海兵隊仕様 )戦闘機搭載用に改装、F 3 5 B42 機(米海兵隊の取得価格は1機1 憶1550 万ドル、約127 憶円日本が輸入する場合は少なくとも30% 高と見て165 憶円程度で、42機で約7,000 億円になりそう。
【航空自衛隊機の世代交代】
日本は米空軍用のF35A(空軍仕様)をこれまでの42機を含めl05 機発注、計147 機。米空軍には1 機8920 万ドル(約98 憶円)で納入。日本が輸入する場合127 憶円程度か。
航空自衛隊はF 1 5 J 戦闘機213 機を取得し、201 機を保有(1機約100 憶円)、引き渡しは1980 年から1999 年まで。初期のものは40 年近い。うち比較的新しい102 機は電子装備などを大幅に近代化改修。それをしていない約100 機は、2025 年頃から退役する。F.35A と交代は妥当。
従来戦闘機は1 世代30〜40 年で更新されるごとに価格は数倍増(F4EJ は20 億余、F 1 5 は100 憶円余)となってきた。F35A はレーダーにほとんど映らないステルス機で、画期的。9ヶ国の共同開発で米軍が空軍、海軍、海兵隊計2443 機配備予定。13ヶ国で3000 機以上が発注されているためFl5Jと比較し性能向上の割には価格が上昇していない。
【空母F35Bへの搭載に合理性を欠く】
だが「いずも」「かが」 にF35 B を搭載し空母化することは合理性を欠く。この2 隻はヘリコプター各14 機を搭載できる。空母として使うなら、敵機が低空飛行で接近するのを探知するために大型レーダーを付けた早期警戒機が必要。米空母のE2C/D 早期警戒機は搭載できないから、ヘリコプターにレーダーを付けたものを4 機を搭載するしかない。(オスプレイを早期警戒機に改造することも考えられる。)
また発着艦に失敗し海に転落した航空機の搭乗員を救助するため、救助へリぎ機も必要だから、戦闘機は8 機程度しか積めない。米空母は約70 機〈うち戦闘攻撃機50機搭載。他国の空母も40機程度は搭載する。
【日本版海兵隊は全滅の公算大】
離島の争奪機では航空優勢(制空権)の確保が不可欠。東シナ海は中国にとり最重要の「台湾正面」だから、そこを担当する東部戦区には台湾空軍と同等の約400 機の戦闘機、攻撃機を配備し、うち300 機近くは新型(第4 世代機)と見られる。航空自衛隊は那覇にF15 約40 機、九州の築城、薪田原告主ら空中給油で出しても、20機が構々。数的に決定的劣勢。
中国の操縦士の飛行訓練は年間150 時間で日本と同等。制空権が確保できないのに水陸機動団に上陸作戦をやらせれば、海上で全滅の公算大。仮に隙を突いて上陸に成功しでも、補給増援が途絶えれば降伏の外ない。逆にもし日本が制空権を握れば、中国軍は島に侵攻できない。尖閣諸島付近での航空戦に戦闘機8 機(一部を甲板に露天係留しても10 数機)を積んだ小型空母が参加しても大勢に影響はない。
空母は年間3 か月はドック入りし、それが終わると再訓練をしてから出動するから、米海軍は「空母は3 隻で1 隻を出せる。」 とする。小型空母2 隻では無理をしても1 隻(8 機)を出せる程度。米国の他、ロシア、中国、インド、英、仏、ブラジル、タイが空母を保有しているが、いずれも1, 2隻では出せない期聞があるし、掲載機も少ないから、戦力というより国家的虚栄心の表れ。日本の小型空母「いずも」「かが」も観艦式の主役となる以上に役にたちそうでない。
【尖閣周辺は非EEZとして、再び棚上げ合意に戻った】
田中角栄と郵小平は尖閣問題を棚上げにし、その周辺にはEEZ をたがいに設定せず、目、中、台湾の漁船の操業を認める「大人の妥協」で対立を避けた。香港、台湾の保釣行動委員会が上陸しでも、「国外追放」にして紛糾を防いだ。2010 年9 月7 日中国漁船が日本巡視船と衝索、日本は船長を逮捕、起訴しようとしたため、中国は反発、2012 年9 月11 日野田政権が3 島を買収、国有地にしたことは対立を激化させた。20 14 年11 月10 日の安倍、習近平会談前の合意文書で「双方が異なる見解を有することを認識、不測の事態を回避する」ことを決め玉虫色の表現で棚上げ状態に戻ったが、だがなお対立は続き、日中の軍艦の親善訪問は7 年以上中断されていたが、中国の巡視船等公船の尖閣周辺の日本領海への侵入は、ピーク時の2013 年の188 隻から2018年には70 隻に減少、今年4 月23 日青島での中国観艦式に護衛艦「すずつき」が参列した。米海軍は参加しなかった。
今年10 月の海上自衛隊観鑑式には中国軍鑑も参加するが、韓国海軍は招待さていない。「日、米、韓の連携強化で中国に対抗」との論と逆の状況になった。山村浩海上幕僚長と沈金竜中国海軍司令官は青島で会談、交流の広範な拡大で合意した。
【対中関係の好転のなか、逆行する装備仕様変更】
安倍首相は2006 年10 月8 日(就任後1 2 日)に北京で胡錦涛主席と会談し「戦略的互恵関係構築」で合意、2017 年6 月5日、日経新聞主皆の「アジアの未来」で、一帯一路に協力を表明、2018 年10 月26 日中首脳会議でも一帯一路への協力で合意した。2019 年4 月14 日の日中ハイレベル経済対話(日本6 閣僚参加)後に河野太郎、王毅両外相は『日中関係は正常な軌道に戻った』と表明、トランプ政権の専横な政策に対し日中が協力して対応する姿勢を示した。日中関係が好転する中、水陸機動団創設、オスプレイ、AAV1 などの導入、「いずも」「かが」 の空母化などは正反対の方向だ。
防衛力整備計画は策定から実現までに数年ときには10 年以上のタイムラグがあるから、過去の情勢を反映し、壮大な無駄になる公算大だ。
【丸山穂高の「戦争発言」は、現実を知らない「バカ派」の論】
丸山穂高衆議院議員のロシアとの戦争発言の背景には、水陸機動団など上陸作戦能力の創設と、極東ロシア軍の衰弱がある。東シベリアにかつて40 万人の兵力がいたが今では7 万人、千島に3500 人だ。一時的には水陸機動図による国後、択捉の占拠も可能だろうが、ロシアは201 8 年9 月11 日からの東シベリアでの演習「ボストーク20 18J に30 万人、1000 機を集結。NPT で公認された核保有国、国連安保理常任理事国で軍事力、政治力は日本よりはるかに強大だから戦争は悲惨な結果となる。「タカ派」というより「バカ派」の論。
【日本は、九州より広い土地がいまだ登記されていない】
領土問題ではどの国民も興奮しがちだ。だがドイツの第二次大戦後領土は、戦前の42% となったが、1961 年(敗戦後16 年)に英仏をしのぎ世界第2 の経済大国となった。日本は満州を含むと領土は戦前の20%と減ったが、1968 年にドイツを抜いて第2 の経済大国に躍進した。商、工、サービス業が主体の今日の先進国経済では、資本、技術、情報、他国との友好関係、従業員の質と量などが国力の源泉だ。
採取経済や農業中心の時代とはちがうはずだが、サルでもアリでもテリトリー争いをするのは生物の本望だ。多くの国がそれぞれ近隣諸国と小島や川の中洲、山地などの領土問題を抱えている。尖閣諸島の5 島と3 岩礁の面積は計5.5 平方キロにすぎない。日本では九州より大きい4万1 千平方キロの土地がまだ登記されておらず、所有者が不明で行政の妨げとなっている。これと比較すれば尖閣防衛に巨費を投じるのは滑稽な程だ。「主権」には他国の内政干渉を受けない「政治的主権」と「領土的主権」があるが、領土はロシアがアラスカ、プランスがルイジアナをアメリカに売却したり、譲渡や王家の相続の対象となった例も少なくなく、領土的主権は不動産の所有権と似たものだ。
【領土問題で本能を煽るより、国益に適うやり方を】
領土問題では本能を煽るよりは「日本が領土の約8 割を失って驚躍的な発展を遂げたのはなぜか」を考えるように教育するほうが国益にかなうだろう。とは言え、どの国民もテリトリー意識は本能的であるだけに、「領土は神聖、寸土も譲らず」とのスローガンに政治もメディアも引きずられ譲歩はしにくい。玉虫色の妥協で棚上げにするしか良策はないだろう。
by inmylife-after60
| 2019-06-02 15:40
| 政治・外交・反戦
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